ごあいさつ

私たちは「異常な世界」で子育てしていることをまず自覚した方がいい

2023年1月29日、文科省調査、発達障害8.8%をどう理解すればよいのかというテーマで東京大学・インクルーシブ教育定例研究会が主催するオンラインセミナーが開催されました。

セミナー動画の全編はこちら

https://youtu.be/s4MRRicoziU

このブログでは、私の心に響いたセミナーの9つのポイントと私の感想をまとめまています。

結論から言うと、私たちは「異常な世界」で子育てしていることをまず自覚し、子育ての方向性を見定める必要がある、と思いました。

子どもの発達に不安を抱えているお母さんたち、そして私自身に向けて書きました。お母さんたちの迷いが少しでもなくなれば嬉しいです・・・!

発達障害「8.8%」という文科省調査の発表

2022年12月13日、文部科学省から「通常の学級に在籍する小中学生の8.8%に学習や行動に困難のある発達障害の可能性がある」という調査結果が発表されました。

この調査は、発達障害の実態を明らかにする目的で2002年に始まり、10年ごとに行われています。

通常学級の子どもに発達障害の可能性がある割合は、

  • 2002年:6.3%
  • 2012年:6.5%
  • 2022年:8.8%

と示されており、2022年度は最多ということになります。

しかし、発達障害はいまだ原因不明とされており、誤診の危険性やこの調査の課題も指摘されています。

どんなセミナーだった?

セミナー開催の背景とは?

バリアフリー教育開発研究センター長の 小国 喜弘 先生 は、

「この8.8%という数字が流布すると、自分の教室にも8.8%は発達障害の子どもがいるはずだという目で子どもを見ることで、余計に発達障害とされてしまう子どもが増えかねない」とセミナーの中で危惧されていました。

東京大学大学院教育学研究科附属 バリアフリー教育開発研究センター:https://www.p.u-tokyo.ac.jp/cbfe/interview/sample1/

石川憲彦先生って?

講師の 石川 憲彦 先生(児童精神神経科医)は、20年前から始まったこの調査に非常に鋭い批判の目を向けてこられたそうです。

センター長の小国先生からは「1970年代の医学部改革運動から、共生・共学をずっとサポートされ、不登校の子どもや親に寄り添った発言をずっと続けてこられた素晴らしい先生」とご紹介されていました。

私は石川先生のことを始めて知りましたが、子ども(当事者)にとことん寄り添ったご発言にうるっと涙ぐんだり、物事をマイナスからプラスに捉えるお考えに感動しました。こんな先生が日本にもいたんだ・・・!と希望がわくようでした。

セミナーの9つのポイント

ここからは、私が心に響いた9つのポイントをご紹介します。

※ 私の言葉で要約しています

1. その支援は誰のため?

子どもの未来を正確に想定できない状況で、何を支援できるというのだろうか?

20年前から始まった文科省の発達障害の調査を受けて、「子どもは何も変わっていないのに、どうして障害者が急に増えるのか?この我々の見方は何なのか?」と考えた。人間の脳は複雑で、開いてみればどこかしら傷や障害があるもの。全員に特別な支援があってもいいくらいだ。このくらい開き直っているならいいが、ある子を選んで障害だと分類する

しかし、私たち大人は自分が育ってきた過去の判断基準で子どもの未来を描いているだけで、目の前の子どもたちがこれから切り開いていく未来を見ていない。(私たちが子どもの頃、これほどIT化が進み、コロナが流行り、戦争が起こるなんてことを想像できただろうか?)

子どもの未来が見えない状況で、何を支援できて、何を特別と言えるのか?

その支援は本当に当人のためになっているのか?

2. 農業から工業化へ ー その時、何が起きた?

自然にはたらきかける感覚は困ったものとなり、画一的な社会を作るために「学校」と「精神病院」が作られた

農業中心の生活を送っていた時代は、人間は自然感覚を持っていた。暖かくなったから何をしよう、氷が溶け出したから種を植えよう、雨だからこれをしようといった、お百姓さんの自然に働きかける感覚である。

しかし、18世紀に工業化の波が起きた。ここが問題。工業化が起こった瞬間にお百姓さんの自然に働きかける感覚は工業社会では困るものとなった。温度が何度になったらこうしよう、何分経ったらこれをする・・・というように、数字で縛られた画一的な世界であることが工業化においては大事である。

1800年頃のフランス、ナポレオンの時代には工業化が始まると大混乱が起き、鈍臭い百姓を洗練された市民にしなければいけない、となった。これを子どもの時期から教育しないといけない、ということでできたのが「学校」。それともう一つ。機械化社会や工業社会において、鈍臭くてはみ出して困ったことをする人たちをどうにかしなければ・・・といってできたのが「精神病院と施設」。学校と精神病院は実はペアだったのだ。

3. 工業化の恩恵とは?

寿命が2倍になり生活が便利になった

それでも、人々は工業化を受け入れた。なぜか。最も恐ろしい「死」が変わったからだ。冷暖房が整うだけで老人の寿命が伸びる。食べ物が良くなり栄養がとれる。栄養、エネルギー、富。これらの転換が工業化によってもたらされ、平均寿命がざっくり40歳から80歳へと伸びた。それまで農業の神様が守ってきた寿命が、工業の神様が登場すると2倍になったというわけだ。

4. 工業化の弊害とは?

土の道路がなくなり、自然と人間が分断された

一方、土の道路が工業化によって石畳に、現代ではアスファルトに変わっていく。環境が変われば人間の精神性が大きく変わる。

土の道路が石畳になると、糞尿を捨てる場所がなくなる。農業の時代は、土の道だから糞尿や腐ったものは道に捨てても土が吸収してくれた。これが石畳の道路(現在ではアスファルト)になると、糞尿を吸収してくれる自然がなくなる。するとばい菌が溢れて困るので下水道を作る。腐るものや、臭うものを排除する。このように自然と人間をたち切ったのものが「都市」である。どんくさい百姓は困るのと同じ理屈で自然が排除された。

5. 工業化は人間をどう変えた?

「臭い」が排除され自分の「匂い」を必死に消す不自然な時代となった

「自然」が排除された影響がどこにいくのか。日本では1970年代に水洗便所が主流になったが、その頃からおねしょを心配する親が急増した。また、パリでは香水が流行り、日本では洗剤が広まり人間の匂いを嫌いだした。これは怖いこと。動物は匂いを嗅ぎ合うことで愛情を確かめる。匂いは一旦慣れればすぐに許せてしまうもの。ところがこれを消すことが市場命題になり、1980年代で起こったのが朝シャン現象。シャンプーで自分の匂いを消す。そして臭いからという理由で横浜の殺人事件が起きた。現代になっても、柔軟剤などが流行り自分の匂いを必死に消している。許しあう感覚や、愛情を消しているということ。これは工業化が運んだ。

また、工業化の影響で化学物質の過敏症や弊害なども起こり出し、こういう子どもたちを支援学級に入れようという動きすらある。

6. しつけの言葉の80%は「◯しなさい」?

「早くしなさい」「ちゃんとしなさい」「きちんとしなさい」

日本では戦後、再興・復興でがんばり続け、取り入れた工業システムが「トータルクオリティコントロール」。どこよりも早く、どこよりもちゃんとした製品をつくり、できた後もきちんとフォローアップします、というもの。そうして日本が世界のトップに躍り出た1970年代〜1980年代。4歳の子どもを持つ親たちを対象に “しつけ” の調査をしたところ、親の言葉の80%が「早くしなさい」「ちゃんとしなさい」「きちんとしなさい」であった。まさに機械を扱うのと同じ言葉である。

7. 子どもを「分類」する大人の感覚はどこからきている?

鉄鋼の時代の古い価値観で子どもを「発達障害」と分類する

私たちは工業化により、大きな寿命と便利な生活を得た。しかし、土との関係を断ち切られ、をモノのように扱うようになってしまった。

鉄鋼の時代から半導体の時代に代わり、またその時代が大きく変わろうとしている現代なのに、私たちの感覚は鉄鋼の時代から何も変わっていない。早くしなさい、ちゃんとしなさい、きちんとしなさい。この古い感覚で「発達障害が増えた」と言っているのが大人の理解であり感覚なのだ。

8. ADHD(注意欠陥・多動)とASD(自閉スペクトラム症)は “障害” なのか?

ADHDとASDは人間の「才能」だ

人間は弱い哺乳類。弱い哺乳類にとって大事なことは、常にキョロキョロして身の安全を図ること。じっと集中して気を散らさずに観察するなんてことを草原でやっていたら、たちまち捕食されてしまう。つまり、ADHD的才能こそ、人類が生き延びる最大の武器だった。

また、戦後に工業の質の変化が起こり、融通の効かない変な人間が問題とされるようになった。こだわりがある、他人に迎合しないというASD的な職人気質は、人類の文明が発展するために不可欠。特に日本人の田んぼはいい例。水をひき田を整えあんなに綺麗な田んぼを作るというのは自閉症のこだわり気質そのもの。シングルフォーカスという性質。

9. では、私たちはどうすればいいの?

脳のそんな部分をお互いに大事にしあって生きていく

脳の傷なんて誰だって持っている。進化というのは、前の時代では異常だったものが、次の時代になれば適応性を増すというもの。脳のそんな部分をお互いに大事にしあって生きていくのが、人類が絶滅しないための条件。


以上、セミナーの9つのポイントをご紹介しました。

石川先生は、最後まで子どもに寄り添った視点でお話されていました。今回の大事なポイントは「工業化」です。農業の時代から工業の時代へ変わったこの大きな変化によって、自然と人間が分断されてしまった問題点を説明してくださいました。

自然から分断され、その結果人々の心がどう変わったのか。

しつけの言葉も工業化と同じように変わったいったというお話が、私は特に心に残りました。「早くしなさい」「ちゃんとしなさい」「きちんとしなさい」とは私もつい言ってしまう言葉ですが、工業化によってもたらされた影響を知らないうちに受けていたのかと複雑な気持ちになりました・・・。子どものペースを尊重してゆっくり待ってあげたいと思いました。

実際のセミナーでは私が紹介した9つのポイントのほかにも、薬についての考察や、質疑応答なども含めてたっぷり2時間半に及ぶ講義でした。薬については、石川先生は安易に治療薬を使わないお考えで、私も共感できるところがたくさんありました。

詳しく聞いてみたい方は、ぜひ下記の動画をご覧ください。

セミナー動画の全編はこちら

https://youtu.be/s4MRRicoziU

異常な世界で子育てしている私たち。さあ、わが子をどう育てる?

最後に私の感想をまとめます。

発達障害「8.8%」という数字。変わったのは子どもの脳か?それとも・・・

発達障害の可能性がある子どもが8.8%に増えたという数字。

石川先生は、何が変わったのか?について、子どもの脳ではなく「世界が工業化したことで自然と人間が分断されたことを指摘されました。

本当に変わったのは子どもの脳ではなく、人間が人間らしく生きられない社会になったこと。一方、頑なに変わらないのは、鉄鋼業の古い時代から変わっていない「早くしなさい、ちゃんとしなさい、きちんとしなさい」という大人の価値観です。

異常な世界で子育てしていることを自覚した方がいい

人間は寿命や便利さと引き換えに、人間が人間らしく生きられない都心の生活を手に入れました。人間も動物だという視点で見れば、自然と分断され匂いを遮断する生活は、異常な世界といえます。なのに、異常な世界に適合できない子どもを逆に異常とみなし要支援とする社会は、何かが狂っていると私は思います。

私たちは、異常な世界で子どもを育てていることを、まず自覚した方がいい。

そのうえで、子どもに異常な世界に適合させたいのか、脱出させたいのか、教育の方向性を決めるのは親の選択です。

世間の価値観に振り回されるのをやめよう

あなたは、どんな子育てを選びますか?

私は、息子には異常な世界から脱出してほしいと願います。

もし、異常な世界から脱出させる教育を選んだら、世間の価値観に振り回されてはいけません世間の価値観とは大多数の意見であり、これは異常な世界(不自然な世界)を支えている価値観だからです。

これからやってくる未来を冷静に見据えて、「この子の将来にどんな力が必要か?」を親がきちんと考えて、異常な世界から子どもを守ってあげてください

その先に、自分の人生を楽しめる道が拓けているはず。

私はそう思います。


今回の記事は以上です!

最後までお読みくださり、ありがとうございました。

セミナー動画の全編はこちら

https://youtu.be/s4MRRicoziU

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA