こんにちは!さよんごです。
今回は「発達障害」について本から学んでいきましょう!
現代は発達障害バブルとも言われ、テレビやネット上に発達障害の情報があふれています。
でも、すべての情報が正確なのでしょうか?
「発達障害」には何だか抵抗を感じる…
ちょっと過剰反応しすぎでは…?
そんなふうに、現在の「発達障害」に疑問を持っている方もいるではないでしょうか?
小児科医の榊原 洋一 先生は、「発達障害の誤診・過剰診断が起きている」と切実に訴えます。
今回は、この著書から学んでいきましょう!
- 発達障害の誤診・過剰診断はなぜ起こる?
- 発達障害は「なおる」:outgrowという表現
- 発達障害の早期診断は難しい
発達障害に抵抗を感じる方には、とても勉強になる内容だと思います。
世間に振り回されないように、情報を選んでいきましょう!
目次
榊原洋一先生ってどんな人?
小児科医の榊原 洋一 先生は発達障害研究の第一人者。現在は、お茶の水女子大学の名誉教授をされています(2022年時点)。
また、「チャイルドリサーチネット」という研究所の所長をされています。「チャイルドリサーチネット」とは、インターネット上の子ども学の研究所です。1996年に設立されたそうなので、もう26年目になるようです。
チャイルドリサーチネット(https://www.blog.crn.or.jp)
発達障害やインクルーシブ教育に疑問を持っている方は、「所長ブログ」をぜひ読んでください。世間の常識とはまったく違う見解が述べられています。
今回紹介するのは、『子どもの発達障害誤診の危機』という本です。
「発達障害」の現状を知りたい方におすすめの一冊です。
発達障害とは何か?という基本的な知識から、臨床現場で起きているリアルな問題までわかります。
また、榊原先生が長年蓄積されてきた知識と経験から、子どもに優しい眼差しで慎重に診察されている様子がわかります。
本の冒頭にこう書かれています。
日本の発達障害への理解と対応について「なにか変だよ」と警鐘を鳴らさなくてはならない状況になっていると感じています。
本書は、こうした日本の発達障害の臨床をそれを取り巻く様々な誤解を広く訴えたい気持ちで書きました。何よりも、臨床の場で出会う、誤診や過剰診断で苦しむ子どもたち、そのご家族、また、学校や社会で当事者と関わるすべての方に、今発達障害をとりまく現場で起きていることを知ってもらいたいと、切に願います。
榊原洋一:著『子どもの発達障害誤診の危機』
日本の発達障害について「なにか変だよ」と、私もずっと思っていました。
その謎を解いていきましょう!
本の内容紹介
ここからは、本の内容を紹介します。
次の疑問のヒントになる部分を中心に要約しました。
- 「発達障害」と安易に診断することに問題はないのか?
- 発達障害は本当に「なおらない」のか?
- 早期発見が本当に必要なのか?
発達障害の分類と定義
まず、発達障害の定義を整理しておきましょう。
「発達障害」はの3つの障害の総称で、「注意欠陥多動性障害」「自閉症スペクトラム障害」および「学習障害」の3つが含まれます。
それぞれの定義と特徴を見ていきましょう。
注意欠陥多動性障害(ADHD)とは?
注意欠陥多動性障害(ADHD)とは、集中力が低い・多動行動・高い衝動性を特徴とする行動が、家庭・学校・職場などで頻繁に見られる状態のことです。
- 集中能力が低い(集中力が弱く長続きしない、適切に注意を向けることができない etc)
- 多動行動(せかせかと動き回る、席についていられない etc)
- 高い衝動性
日本では4〜5%の子どもに当てはまると言われています。
診断は、
- こうした症状が家庭・学校・職場などの複数の場所で、高い頻度で見られる
- そのために本人や周囲が困っていること
が必須条件となります。
診断された子どもの多くは、思春期以降に症状が次第に軽快/治癒します。
自閉症スペクトラム障害(ASD)とは?
自閉症スペクトラム障害(ASD)とは、情動(感情)コントロールの障害です。具体的に言うと、言語やコミュニケーションの問題や、対人関係の障害ということです。
他人に関心が少ない、感覚過敏、強い執着やこだわりといった特徴があります。
- 他人に関心が少ない(顔や他人の行動に関心が少ないため、言葉の発達が遅れることがある)
- 感覚過敏(特性の感覚:大きな音、特定の場面、触覚など)
- 強い執着・こだわり(特定の物や行動)
子どもの約1.5%に見られるそうです。
また、言葉の遅れや知的障害のないASDは「アスペルガー症候群」と呼ばれます。
学習障害(特異的学習障害)とは?
学習障害(特異的学習障害)は、その定義が実はまだ定まっていません。
ですが、中核となる症状は読みの障害(ディスクレイシア)で、文字や文章を読むことが困難な特徴があります。
誤診と過剰診断はなぜ起こるのか?
発達障害の誤診と過剰診断はなぜ起こるのでしょうか?それには多くの要因があります。
- 診療する医師に内在する問題
- 発達障害という概念のあいまいさ
- 診断基準そのものの不完全さ(特定の検査はなく医師の問診により診断される)
- 社会の誤った理解 etc
「発達障害」はその概念自体があいまいで、診断基準も不完全です。
例えば「貧血」だったら血液検査をして、はっきりと数値で確認することができますが、発達障害には特定の検査がないため、医師の問診で診断されます。
となれば、診療する医師によって、明かにそうではない子どもが発達障害になってしまうケースがあっても不思議ではありません。
また、2002年の文科省の調査(※後述します)以来、発達障害に対する世間の関心が高まった結果、間違った理解まで広まってしまいました。
特に自閉症スペクトラム障害で誤診が多い理由として、次のようなことが考えられます。
- チェックリスト(M-CHATなど)の結果を、そのまま診断結果としている可能性
- スペクトラム(連続体)という言葉の印象
- 定型発達児にも同じ症状は見られる
- 知能検査の限界 etc
「M-CHAT(行動評価スケール)」とは、自閉症スペクトラム障害のチェックリストです。リスクを検出するためには有用ですが、1度だけの結果をそのまま診断結果にできるものではありません。本来は時間をおいて複数回チェックすることが推奨されているものです。
また、自閉症スペクトラムの「スペクトラム(連続体)」という言葉につられて、基準のすべてがそろわなくても診断している医師もいるかもしれません。
ほかにも、見極めが難しい点があります。自閉症スペクトラム障害の特徴であるこだわりは定型発達児にも見られることや、知能検査は本人の協力する意思がないと低く出ることがある、といったことです。
発達障害は増えている?
「最近増加している発達障害」という表現があります。世間でよく言われる表現ですが、これは本当なのでしょうか?
まず、世間に衝撃を与えた文科省の調査結果を見てみましょう。
★調査の結果
- 2002年では子どもの発達障害の有病率は、2002年では6.3%、2012年では6.5%という結果
★調査の課題
- 調査対象が通常学級のみである
- 教師が診断をおこなっている
文科省の2回の調査結果によれば、2002年では6.3%、10年後の2012年では6.5%と、数値にあまり変化はないように見えます。
それでは「発達障害は最近増加している」という印象はどこからくるのでしょうか?
それには次の理由が考えられます。
- 保護者や教師が発達障害の行動特徴についての知識を持つようになり、従来は医師に罹らなかった子どもが受診することになったから。
つまり、発達障害を有する人の実数は変わらないが、診断率が上がることによって、見かけ上その数値が増加した、ということなのです。
早期診断は困難
発達障害は幼少期にできるだけ早く診断をすることができるのでしょうか?
実は早期診断は難しいのです。
その理由として「健診制度の限界」と、「チェックリストの限界」が考えられます。
- 一人の子どもに長く時間をさけない
- 発達がゆっくりしている子どもが、健診の一時点だけで判断されてしまう可能性
- 人見知りなどで普段通りできないこともある
健診制度で指摘を受けることもあると思いますが、短い時間でたくさんの子どもをスクリーニングせざるを得ない制度に限界があります。
短い時間で発達障害を見極めることは難しいでしょう。
また、発達の個人差で発達がゆっくり(遅れているのではなく)な子どもが、健診などのある一時点で判断されてしまったり、人見知りな子は普段通りにできないことだってあります。
次に、チェックリストの限界です。
- チェックリスト(M-CHAT)で確定される子どもは約半数である
- M-CHATで陰性(リスクが低い)場合でも、後に確定されることもある
チェックリスト(M-CHAT)は自閉症スペクトラム障害の「リスク」を検出するのに有効ですが、確定される子どもは約半数(54%)だそうです。
また、確定された子どものうち3分の2はM-CHATで陰性(リスクが低い)という研究報告もあります。
「でも、早めに見つけて、早めに対処した方がいいんでしょ?」と思われるかもしれません。
残念ながら、早期診断が必ずしも役に立つとは限りません。
- 早期療育の有効性はまだ不確実
- 特別支援学校から通常の学級に戻ることが難しい
早めの療育が良いと言われていますが、早期療育自体、その有効性が不確実なものが多いそうです。
また、早期診断を受けて特別支援学校に行ってから成長が追いついた子は、一体どうしたらいいのでしょう?いったん特別支援学校に行くと、通常の学級に戻ることが難しいという問題があるのです。
発達障害はなおる?:outgrow
- 発達障害は個性の凸凹で、個性はその人に備わったものだから変わるものではない
- 発達障害は遺伝子が関与する生まれつきの障害であり、基本的には治るものではない
という世間の常識があります。
「ほぼ正しくないと確信している」
と著者は言います。
- 発達障害は「outgrow」する
- 連続(スペクトラム)の中で位置が変動していく
発達障害は症状の程度が、定型発達児と連続(スペクトラム)しているため、スペクトラムの中で位置が変動して、社会生活に支障がないレベルに達することもあります。
これには「outgrow」という表現が適しています。「自らの発達する力で乗り越える」という意味です。治る(heal)や治癒(cure)とはニュアンスが違います。
実際に、発達障害が「なおる」ケースを見てみましょう。
まず、自閉症スペクトラム障害が「なおった」ケースです。
- 2歳の時に自閉症スペクトラム障害の症状があった子どもが、5歳の就学前には症状がまったく消えてしまった
2歳の時に自閉症スペクトラム障害の症状のあった子どもが、5歳の就学前には症状がまったく消えてしまったケースがいくつかあったそうです。
これは、発達の速度が遅かっただけということになるでしょう。
続いて、注意欠陥多動性障害が「なおる」ケースを見てみましょう。
- 多くの場合は小学校高学年くらいまでに症状が目立たなくなる
- 最初に改善していくのが多動
- 多動以外の症状も思春期以降には軽快する
注意欠陥多動性障害と診断された子どもの多くは、小学校高学年くらいまでに症状が目立たなくなります。
最初に改善していくのが多動です。席に座っていられない行動が小学校中学年を過ぎてまで続くことは稀です。
多動以外の症状も思春期以降に症状が次第に軽快/治癒します。
発達障害一般に対して「性格のようなもので治ることはない」という言説は、少なくとも注意欠陥多動性障害には当てはまりません。
また、3歳児の標準的な行動は、6歳児に当てはめると多動に当たります。
以上に紹介したケースは、「連続(スペクトラム)の中で位置が変動して、社会生活に支障がないレベルに達した」、つまり「outrrow」したということです。この「outgrow」の時期は、自閉症スペクトラムでは幼少期に起こることが多く、注意欠陥多動性障害は思春期以降に起こることが多いそうです。
日本のインクルーシブ教育:大きな誤解
2002年の文科省の調査結果で、通常学級において発達障害を有する子どもが6.3%と報告されました。これは報道でも大きく取り上げられ、教育界にも衝撃をもたらしました。
これを受け2006年には、教育体制の急激な整備が進められたり、世界では発達障害を有する子どもたちが「インクルーシブ教育」を受けることになりました。
しかし、日本のインクルーシブ教育は、障害を理由に通常学級から子どもが排除されてしまうという、インクルーシブの理念からはほど遠いものになっています。
私の感想
とても勉強になりました!
ブログでは省略していますが、原因を探る遺伝子研究という難しい話や、大人の発達障害と治療の経過なども紹介されています。
この一冊で発達障害ってなに?という基本的な知識から、臨床現場のリアルな問題まで一通りのことがわかります。
発達障害の誤診や過剰診断は、私が気になっていたことの一つです。
息子が2歳の時に、保育園から「問題行動」を指摘されたのですが、保育園の過剰反応では?と思うところが多々ありました。その答えになる一冊でした。
それでは、発達障害の誤診・過剰診断が実際に起きているというで、「発達障害」に抵抗がある親はどうすればいいのでしょう?
受診は絶対にやめようという極端なことではなく、受診が必要かどうか、親が慎重に判断することが必要だと私は考えます。
- 診断された場合/されなかった場合の対応を考えておくこと
- 信頼できそうな医師を何名か調べておくこと
- セカンドオピニオンを受ける前提で受診すること
もし発達障害と診断されたらどうしていくつもりなのか、逆に診断されなかったらどうするのか、何のために診断を受けたいのか?などをよくよく考えてから受診することが必要だと思います。
まとめ
今回は、発達障害の誤診・過剰診断の実態について、小児科医の榊原 洋一 先生の書籍から学んできました。
誤診と過剰診断はなぜ起こるのか?
発達障害の誤診と過剰診断が起こる背景には、多くの要因があります。
- 診療する医師に内在する問題
- 発達障害という概念のあいまいさ
- 診断基準そのものの不完全さ(特定の検査はなく医師の問診により診断される)
- 社会の誤った理解 etc
「発達障害」という概念自体があいまいで、診断基準も不完全です。医師の問診だけで診断されるのであれば、診療する医師によって診断が異なることがあっても不思議ではありません。
早期診断は困難である
発達障害は早期診断は難しいのです。
その理由として「健診制度の限界」と、「チェックリストの限界」が考えられます。
健診という短い時間、ある一点だけで発達障害を正確に見抜くには限界があります。
- 一人の子どもに長く時間をさけない
- 発達がゆっくりしている子どもが、健診の一時点だけで判断されてしまう可能性
- 人見知りなどで普段通りできないこともある
チェックリスト(M-CHAT)は自閉症スペクトラム障害の「リスク」を検出するのに有効ですが、それをそのまま診断には使えないということです。
- チェックリスト(M-CHAT)で確定される子どもは約半数である
- M-CHATで陰性(リスクが低い)場合でも、後に確定されることもある
さらに、そうまでしてなんのために早期診断が必要なのか?と言うと、残念ながら、早期診断が必ずしも役に立つとは限りません。
- 早期療育の有効性はまだ不確実
- 特別支援学校から通常の学級に戻ることが難しい
発達障害はなおる?(発達障害のoutgrow)
- 発達障害は個性の凸凹で、個性はその人に備わったものだから変わるものではない
- 発達障害は遺伝子が関与する生まれつきの障害であり、基本的には治るものではない
という世間の常識に対して、「ほぼ正しくないと確信している」と著者は言います。
発達障害は症状の程度が、定型発達児と連続(スペクトラム)しているため、スペクトラムの中で位置が変動して、社会生活に支障がないレベルに達することもあります。
これを「outgrow」と表現します。「自らの発達する力で乗り越える」という意味です。
- 発達障害は「outgrow」する
- 連続(スペクトラム)の中で位置が変動していく
では、親ができることは何か?
発達障害の誤診・過剰診断が実際に起きている世界で、「発達障害」に抵抗がある親はどうすればいいのでしょう?
受診は絶対にやめようという極端なことではなく、受診が必要かどうか、親が慎重に判断することが必要だと私は考えます。
- 診断された場合/されなかった場合の対応を考えておくこと
- 信頼できそうな医師を何名か調べておくこと
- セカンドオピニオンを受ける前提で受診すること
もし発達障害と診断されたらどうしていくつもりなのか、逆に診断されなかったらどうするのか、何のために診断を受けたいのか?などをよくよく考えてから受診することが必要だと思います。
今回の記事は以上です。
「発達障害は脳の機能障害だからなおらないもの」という常識に対して、あなたが親だったらどんな行動を選びますか?
私は、違う角度からも情報を集めて、子どもの様子をしっかり観察し、受診が必要かきちんと見極めたい。そう思っています。